東洋の軌跡。

突然ですが。

出場校も無事全て決まりもうすぐ春高本戦が始まるということで、私が春高という大会を大好きにしたキッカケ、東洋の柳田将洋の話をします。

ていうか、今までツイッターで散々、マジで散々、東洋のことを呟きすぎたので(笑)一回きちんとまとめてみる。うん。

ここに書いてることは私の勝手な見解であって、もう妄想も入ってんじゃないかって事まで勝手に想像して書いてるので、そういった記事だと思って読んでくださると嬉しい。








さて。私はあの2010年の春高の決勝で柳田さんが一人爆発的な力を魅せ、東洋を優勝に導いたのはもしかして全て最初から決まってたんじゃないかな、と思う。

もしかして、運命で決まっていたのではないかな、と思う。

バレーをやってる高校生なら誰でも憧れる夢の場所・春高に東洋の柳田将洋が姿を見せたのは2009年。彼がまだ一年生の時。

その当時からチームの絶対的エースだった彼。東洋は柳田さんを含めスタメンのスパイカー5人全員がまだ一年生で、二年生なのはセッターとリベロのみだった。

そんな、言うならばまだ出来たばっかりのチーム。他の学校は最後の春高として二年生ばかりで挑んでるチームが圧倒的に多い中、ほぼ一年生でチームが出来ていた東洋。

しかし、東洋は強かった。


春高初戦。まだ出来たばかりのチームだと、一年でほぼ成り立ってるチームだと、ナメてはいけないぐらいのまとまったバレーをする東洋。春高初戦からの容赦なく全力で相手を叩きのめす。

コートの中にいる選手の中で春高デビューした選手が殆どだと忘れるぐらい落ち着いて自分達のやるべきことをやる彼ら。終わってみれば相手に隙を見せることなく東洋の快勝だった。二回戦進出決定。


  • 第二回戦 東洋 VS 市立尼崎

市立尼崎というのは春高の常連で名門校。そしてこの年は優勝候補に挙げられていた。勿論、この勝負の勝利は市立尼崎が固いと思われていた。

しかし、一セット目は競った展開を制してまさかの東洋がセットを取る。二セット目は意地を見せて市立尼崎がセットを取り、フルセットの戦いへ。

そして、三セット目。東洋は崩れない。自分達のペースでバレーをし、自分達は絶対にミスをしない。ジリジリと市立尼崎を攻める。崩れてしまったのは市立尼崎の方だった。焦りからミスが出始める。そこにすかさず東洋が付け込み、どんどん点差が開く。

結果、三セット目は大差をつけ東洋が取る。東洋が三回戦進出。優勝候補の市立尼崎がまさかの二回戦で敗退。まさに大番狂わせだった。

市立尼崎に勝利した時の柳田さんを含めた彼らの喜び様とはしゃぎ様を見たらそれがどんなに凄いことかわかると思う。


第三回戦の相手はタレント軍団・佐世保南。こちらも優勝候補

しかし二回戦で優勝候補の市立尼崎を倒してる東洋は、相手がどれだけ強くても自分達のバレーをやれば相手に付け入る隙はあるというのはわかっていた。二回戦で勝ったことで確かな自信を携えていた。

三回戦になっても東洋の勢いは、止まらない。

セット序盤はエース柳田に点を決めさせてチームをどんどん勢い付かせていく。そして中盤は柳田以外のメンバーで点を取り、終盤になるとまた柳田にボールを集めて一気に相手を仕留めにかかる。

途中少し苦しむ部分もあったが、特に大きな問題もなく二セットを連取して勝利。また優勝候補を倒した。

東洋が30数年ぶりに準々決勝進出を決めた。


  • 準々決勝 東洋 VS 都城

このままの勢いでもしかしたら春高初優勝するかもしれないと言われていた東洋。ほぼ一年生だけで出来ているチームが次々と優勝候補を倒していき、もしかしたらもしかするかも、と。



しかし。奇跡は、続かなかった。

出だしは悪くなかった。いつものようにそれぞれが自分の役割をきっちり果たして、一セット目は東洋が取った。

優勝候補だった都城工から一セット目を取り、このままの勢いで東洋が勝利するんじゃないかと思った。みんなきっと、そう思ってた。

しかし二セット目から相手の攻めたサーブでレセプションが崩れ、いつものような調子が作れない。一つが崩れ出すと、どんどん崩れていく。何かが崩れていく。

そのままいつもの東洋のまとまったバレーを出すことが出来ず、二セット目・三セット目を続けて取られて、逆転負け。準々決勝で敗退。

東洋の奇跡は準々決勝で、センターコートを目前にして、途絶えてしまった。

相手の都城工はそのまま一気に優勝まで駆け上がった。

もしかしたら。いや、もしかしなくてもきっと思っただろう。もしあそこで我々が勝っていたら、優勝していたのは我々だったのかもしれない。あのセンターコートでみんなから注目を受け、喜びの涙を流していたのは我々・東洋だったのかもしれない、と。

エース柳田は準々決勝で都城工に負けた時のことを後々こう振り返ってる

「準々決勝の都城工戦。活躍することが出来ませんでした。あの時の事を忘れずにいつでも決めれるエースでいたい」

一年生ながらにチームの絶対的エースだった彼は、準々決勝で逆転負けした時、どれだけエースとして責任を感じたんだろう。

エースとしてチームを勝利に導くことができなかった不甲斐なさを、情けなさを、全て自分だけが背負いこんだのかもしれない。


そして、東洋の奇跡は終わり、彼らは準々決勝で春高という舞台から姿を消した。






それから一年が経った。

彼らはまた、春高の舞台に姿を現した。
一年という月日は、10代の高校生にはあまりにも長い時間で。沢山のことが変わっていた。

東洋のエース柳田はユース日本代表でもエースとして世界と戦い、ベストスパイク賞を取って日本に帰ってきた。

そして一年前までエースながらにまだ初々しくて、全力で喜び、若さ全開でプレイをしていた彼が、二年生になり上の先輩たちが卒業して、自分がエース兼チームのキャプテンになったことで高校生とは思えないぐらい落ち着き、表情も滅多に変えない冷静沈着な彼に変わってた。

人って一年でこんなに変わるのか、と驚いた。ユニフォームにキャプテンマークの一本線が入っただけで、こんなにも背負うものが増えるのか、と。

柳田さんだけの変化じゃなくて、東洋の変化としては、ユース日本代表として世界と戦ったチームの絶対的エース柳田を含めた、一年生の時に春高を経験してる二年生のスパイカー五人、そして中学時代に全中制覇を経験してる一年生のセッター関田とリベロ小芝を迎えて、磐石の布陣で春高に挑んでいた。

東洋は東京代表第一として春高の優勝候補の大本命になっていた。



  • 第二回戦 東洋 VS 大村工

東洋はシードで二回戦から。東洋のいるブロックは死のブロックと言われていて、東洋含め強豪が一気に集っていた。

その中でも九州は強豪揃いと言われていて、そんな九州の大激戦を制した大村工と初戦。

この試合が初戦である東洋は一セット目からまだ乗り切れておらず一進一退の戦い。

序盤は大村工が何点かリードしたもののセット終盤になると東洋が一気にギアを上げて追い上げ同点に追いつく。やっぱり本当に強いチームは終盤の戦い方が違う。

そのままデュースになりながらも東洋はやはりどこまでも冷静で強くて、逆転で一セット目を取る。

しかし、二セット目もまだイマイチ乗り切れてない東洋。序盤でミスを重ね、点が一気に開いてしまう。セット中盤から柳田さんが乗ってきたこともあり柳田さんにボールを集めて7.8点差あったもののを徐々に追い詰めるが、23-25で一歩届かず二セット目は大村工が取る。

初戦からフルセットの戦いになった東洋。優勝候補なのに初戦で負けるなんて、絶対に出来ない。
三セット目、私から見ればここでようやく本来の強い東洋が戻ってきた。序盤からギア全開の東洋は点差を一気に引き離しにかかり、最後まで勢いを落とすことなく大差で三セット目を取った。東洋の勝利。


23得点という両チーム最多の点数を一人であげながらもこの日はいつも以上に表情が固かった柳田さん。
チームメイトに厳しい表情で何か言ってる場面も多々見られて、そんな柳田さんの心情を知ってか知らずか、チームメイトの岩橋くんが三セット目のコートチェンジの時に柳田さんの背中をポンポンとしたのが印象的だった。

試合が終了して、無事勝利をつかんだ時、柳田さんがホッとした表情を見せ、ハッと我に返り誰に言うわけでもなく「ごめんごめん」と一人で言った。
その時にこの人が背負ってるものの大きさが見えた気がする。

その後のインタビューでの柳田さんの言葉
「今日は全然ダメでした。仲間にあんな姿を見せてしまって申し訳ない」

優勝候補のエースというのはきっといつも何かを背負いながらコートに立ってて。優勝候補のキャプテンというのはきっといつも責任を持ってチームを引っ張ってて。

その「優勝候補・エース・キャプテン」という名を全て持っていたのが東洋の柳田だった。周りの無数の期待や、ユース日本代表のエースがいるチームだから勝って当たり前というプレッシャーを柳田さんは当時のあの細い背中で一人で背負ってこの大会に臨んでいたんだ。


  • 第三回戦 東洋 VS 福岡大濠

この当時の春高では「平成の三羽烏」と呼ばれている三人がいた。東洋の柳田・鎮西の池田・大濠の山田の三人。彼らは全員チームのエースで、ユースでは日の丸を背負って同じコートで戦った。

その内の二人、東洋の柳田と大濠の山田がこの春高三回戦で当たることになった。

この三人は普段からとても仲が良くて頻繁に連絡を取り合う仲。春高の対戦表を見て、勝ち進めば三回戦で二人がぶつかる事を知った時、二人はこう言い合ったと言う。
「俺らが戦うにはまだちょっと早すぎるよな」

そう、まだ早いのだ。優勝候補の2校がここでぶつかるのはまだ早すぎたのだ。

しかし運命は残酷で、流石は死のブロックと言えるだけあって優勝候補の2校がこの三回戦でぶつかり合う。どちらかは勝ち、どちらかは負けて春高を去るという、決着をもう付けなくてはいけなくなってしまった。

試合が始まって、両者互角の戦いが予想されていたが、とにかく、東洋が凄かった。

昨日とはまるで違う。柳田さんだけではなく、コートにいる全員が自分のやるべきことを淡々と冷静にこなす。いつもの強い東洋がそこにはいた。



東洋の作戦はこうだった。柳田以外はサーブでとことんセンターを狙い、センターにレシーブさせることでセンター線を使えなくさせる。サイドだけにブロックを絞り、相手の全ての攻撃にブロックでワンタッチを取り切り返してこっちは確実に決める。
柳田はジャンプサーブでとことん相手のエース山田を狙いレセプションを乱れさせて山田を打てないようにする。

相手もサーブでこちらのエース柳田を集中的に狙ってくるが、柳田さんがきっちりレシーブしてセッターに返し、そのまま自分で打ってくるので、向こうの作戦は効かない。

去年、準々決勝の都城工戦でレセプションが乱れてそのまま負けたのを教訓にして、柳田さんは自分でレセプションしてそのまま助走を取ってスパイクを打つという練習を山ほどしたのだ。その努力が実って、東洋は全く崩れなかった。

そしてそのまま二セット連取して、快勝。最後まで向こうのエース山田を乗らせることなく、逆に東洋は自分たちの持ち味を十分に発揮して完璧な勝利だった。


  • 準々決勝 東洋 VS 弥栄

去年はここで負けた準々決勝。

しかしそんな事はもう吹っ切っていて、東洋の勢いはセット序盤から止まらなかった。
序盤から相手を寄せ付けず東洋の勢い全開でどんどん相手と点差を引き離していく。

大村工、福岡大濠と九州の強豪校を次々と倒してきた。ここまできたら絶対にセンターコートに行ってやるぞという強い気持ちが見えた。

最後まで相手を寄せ付けることなく危なげなところもなく二セット連取して勝利。

準決勝進出。
去年のリベンジを、果たした。

この日の柳田さんは終始落ち着いて、調子も絶好調で、去年の準々決勝で負けたことなんて完璧に忘れているんだと思っていた。何も気にしてないんだと勝手に思ってた。

しかし、試合後のインタビューで彼はこう言った。

「昨日の夜はあまり寝れなくて、不安もあった」と。

昨日の夜寝れないぐらい、去年負けたことを覚えてたんだ、彼は。去年逆転負けした抱えきれない悔しさを1日も忘れずに彼はこの日まで来たんだ。

私たちが想像していたより、この頃の彼は沢山のことを考えてて。いつも表情を滅多に変えず高校生と思えないぐらい大人びて見えるが、本当は普通の高校生達と何も変わらなくて、不安だってプレッシャーだっていっぱい抱えてて。
そして、それを一人胸の奥に閉まって、今日もチームの絶対的エースとしてコートに立っている。

弥栄戦に勝った後、よっしゃーと声を出して、笑顔を見せ、思わずチームメイトにハイタッチを求めた彼を見て、彼は、彼等は、普通の高校生と何も変わらないんだと思った。

去年の雪辱を見事晴らし、夢のセンターコートへ。


初めてのセンターコート。相手は春高常連校の強豪・雄物川。そして春高は、準々決勝から五セットマッチになる。



1.2セット目はいつもの東洋だった。いつもエース柳田だった。

東洋はずっとセット序盤などサイドアウトは柳田以外のメンバーが点を取り、セット終盤やトスが乱れて苦しい時、ここぞと言う時には柳田にボールを集めて確実にモノにしていくというバレーをずっとしていた。東洋の監督は「柳田以外の選手が目立っていると
その試合はいい試合運びが出来ている」と言っていて、今日の試合は正しくそうだった。

相手の研究もキッチリしていてマークもキッチリ取れているためいつも以上にブロックポイントも沢山出ていて、エース柳田のみに負担も集まってない。いつも以上に他の選手も、そしてエース柳田もいい働きをしていて、最高にいい試合運びが出来ていた。1.2セットをあっさり連取。

特に二セット目終盤は東洋のブロックポイントが山ほど出て、雄物川は打っても打っても決まらない。相手のコートにすら返らない。全てブロックされるという展開になっていた。

ここまま東洋の勢いで勝つものだと、そう誰もが思っていた。

しかし三セット目。序盤は良かった。相手も立て直してきてサイドアウトの応酬。競った展開。

セット中盤になりセッター関田がエース柳田にボールをあげると珍しくアウト。その後もアウト。またアウト。

他のチームメイトも、監督も、向こうのチームも、実況解説も、徐々に気付いていく。
「柳田がおかしい」と。

相手のブロックにかかってるわけじゃない。相手に捕まったわけでもない。何度打ってもそのスパイクがコートの外になる。相手に何かされるわけでもなく自らがミスをする。

柳田さん自身も本当に理由がわかってないみたいで打つ度にアウトで首をかしげる。いつも滅多に表情を変えない彼が思わず苦笑いしてしまう。彼の中で焦りが見える。

そしてそんなスパイクの不調に畳み掛けるかのようにサーブが全く決まらない。チームの武器であった柳田のサーブが決まらないのだ。アウトになったりネットを引っ掛けたりとりあえず決まらない。相手のコートに全く入らない。本人も打った後に、天井を見る仕草が何度もあって、実況には照明の問題かと言われていた。

そのままミスを重ね東洋は流れを戻せないまま、柳田さんも自らが不調の原因を掴めないまま、三セット目は雄物川に大差で取られた。

四セット目。相変わらずエース柳田の調子は戻らない。スパイクも決まらない、サーブも決まらない。流れは完璧に雄物川で、どんどん点差が開いていく。このままではやばい。四セット目を取られるとやばい。去年の逆転負けされた準々決勝の都城工戦を思わず思い出してしまう。


しかし、彼らは変わっていた。
一年前のようなまだ出来たばかりのチームじゃない。一年生の時からコートに立っている二年生が五人もいて、その月日はただ過ぎていったわけではなく、彼らの中で間違いなく絆とか、深い信頼関係が出来ていたのだ。そして新たな一年生を二人加えた今の新チームは未だに公式戦で負けなし。勝てるという自信だって、俺らが決勝にいくんだという強い気持ちだって彼らにはあった。

四セット目序盤からエース柳田の不調という穴を埋めるように他のメンバーが活躍するのだ。

リベロの小芝くんがとにかく拾って拾って拾う。セッターの関田くんが巧みなトス回しで相手のブロックを分散させ、時にはツーで自らが点を取る。ライトの岩橋くん、柳田さんと対角のレフト桑折くんがいつも以上に頑張って点を取る。センターの並木くん手塚くんがブロックポイントを稼ぐ。何とか雄物川に点を離されないようにみんなが、みんなが頑張っていた。

そしてコートにいる全員がエース柳田が不調だとわかっていてもここぞと言う時には柳田さんにトスを上げ続ける。
柳田さんが何度ミスしても、ここでエース柳田を潰してはいけないというかのようにしつこく何度もトスを上げ続ける。



そのみんなの努力や思いが実った、このエース柳田さんの復活のバックアタック

今大会一番のガッツポーズと笑顔が出た柳田さん。そして周りでも今までの中で一番喜んでいるチームメイト達。

涙が出るほど、美しい瞬間。
これが青春だ。これが仲間だ。東洋はこんなにも熱い友情関係で結ばれてる。

そのままサイドアウトの応酬でセット終盤へ。デュースになる大接戦。

しかし、東洋はエース柳田がチームメイト達のお陰で見事不調から復活しているのだ。そして東洋は他の選手も絶好調。先ほど試合中に起きた試練を全員で乗り越えた彼らは今まで以上に強い絆で結ばれた。目に見えない何かが確実に変わったように見えた。彼らは以前より強くなった。

デュースになりながらも見事東洋が四セット目を取って勝利。最後の得点は柳田さんのブロックポイントだった。

思わずブロックポイントを取って勝利を掴んだ時、スライディングして喜びを爆発させた柳田さん。

この一勝は東洋の春高の戦いの中で最も大事な勝利だったと思ってる。東洋は柳田だけじゃないと示した勝利。一つの壁を乗り越えて掴んだ勝利。みんなで掴んだ、勝利。

東洋、決勝進出。全ての決着は明日に決まる。


  • 決勝 東洋 VS 鎮西

平成の三羽烏の内の二人、東洋の柳田VS鎮西の池田の戦いがここで実現。これまで公式戦でこの二校は戦ったことがなかった。そんな二校の公式戦初対戦がこの春高の舞台の決勝。

春高出場校が決まった時からこの二校が決勝に行くんじゃないかと言われていた。そんな優勝候補の二校が予想通り決勝のコートに姿を現した。

ユース全日本代表で一緒に世界と戦ってから頻繁に連絡を取り合うほど仲が良くなった二人。

大会前、二人はこう約束した。
春高の決勝の舞台で戦おう」と。

試合前、この決勝戦の解説を担当していた河合さんは両者の印象を聞かれてこう言ったのだ。
「東洋は柳田以外が活躍しないと勝つのは厳しい」と。
それは東洋はエース柳田だけの力では勝てないということ。

みんなが昨日の準決勝で不調だった東洋のエース柳田を見ている。一方、
鎮西のエース池田は昨日の準決勝で一人で23得点と大活躍。きっと殆どの人は昨日の様子を見てると勝つのは鎮西だと思ってたんじゃないだろうか。


決勝戦のホイッスルが鳴り響く。
両者の一点目は両者のエースのスパイクポイント。

世界とも戦った絶対的エースがいる両校の戦い。セット序盤はほぼ互角の戦い。

しかしみんなが徐々に気付き出す。東洋のエース柳田が昨日とはキレが違う、と。昨日途中からアウトばかりになってたスパイクが嘘みたいにキレ良く相手コートを襲う。打っても打っても決まる。

サーブも昨日あんなに決まらなかったのにこの日は思いっきり打てるようになっていた。昨日だけではない、これまでの中で一番強く打てていた。この決勝の場で。


まるで夢みたいだった。エース柳田が絶好調となればセッター関田も柳田にトスを集めまくる。たまに止められることもあったが、それでも名セッター関田が強気に柳田にトスを上げ続ける。



鎮西は柳田をどれだけマークしても潰せない。それどころか鎮西はいつもの鎮西らしさを出せない。

決勝戦での柳田さんは本当に圧巻だった。圧倒的強さだった。一人主役状態だった。誰が見てもかっこよかった。

鎮西が逆転しそうな雰囲気は何度かあった。鎮西が点数で東洋より前に出る部分はあった。しかし、東洋が、柳田がそのままセットを取ることは許さなかった。気を抜けば東洋が勢いに乗って点を重ねてどんどん点差が離れていく。

東洋が勢いそのままに一、二セットを連取し、第三セットの24-22の東洋マッチポイントの場面。

当たり前のようにエース柳田にあがるトス。相手だって最後はもちろん柳田が決めるとわかっていて、ブロックをつく。しかしそんなブロックを吹き飛ばして点を決めた。

最後まで東洋のエース柳田は潰れなかった。試合終了のホイッスルが代々木のコートに鳴り響く。東洋が春高初制覇を達成した瞬間。終わってみれば柳田さんは1人で両チーム最多の27得点取り、決定率は70パーセント以上。圧巻だった。圧巻の勝利だった。柳田さん自らの一点で掴んだ勝利。自らの力で、東洋を、仲間を優勝へと導いた。

この時のことに関してこんな記事がある。

2-0で迎えた第3セット、24-22、東洋のマッチポイント。最後はどこにあげるか。関田だけでなく、チームに迷いはなかった。
「最後は柳田に決めて欲しかった」
エース対決に勝ったからではない。チーム力で上回った東洋が、大本命のプレッシャーに打ち勝ち、初めての栄誉を手にした。

決勝戦もいつもと変わらず冷静で表情はあまり変えず、たまにしか笑顔を見せなかった柳田さん。

そんな彼が、優勝が決まった時、涙を流していた。


ユース全日本代表の中でもエースだった彼。いつの間にか沢山の人に注目されるようになれ、今年の東洋は柳田がいるから春高優勝の大本命だと何度も言われてきたのだろう。優勝候補というのは勝って当たり前、決勝の舞台まで来て当たり前と、勝手に思われる。

そんな周りの期待をユース日本代表のエースとして春高の舞台でも戦わなくてはいけないプレッシャーを彼はたった一人で背負って、東洋の絶対的エースであり主将として戦ってきた。

優勝候補と周りは勝手に言うけれど、その優勝までの道は簡単なものではなかった。シードながらも一番苦しいブロックにいれられ、毎試合のように強豪と当たる。一戦一戦勝つのに必死で、安堵の瞬間なんてものはきっと一ミリもなかったのだろう。

ずっと気を引き締めた状態で、俺がチームを引っ張らなきゃ、勝たなきゃいけないというプレッシャーに押し潰されそうになる。たった一人の高校生がそれを全て背負うのはどれだけ辛く苦しく大変なことか。

しかしそんな苦しい戦いの中で確かに生まれた絆もある。必死に一戦一戦勝ち抜く度に深まるチームメイトとの信頼関係。そんなチームメイトの存在が柳田さんの背負ってる荷物を幾分か軽くしてくれたのは事実だと思う。

準決勝で何とか雄物川に勝った後、柳田さんはこう言った。
「あの不調の中、それでも勝てたのは逆に自信になった」と。

自分が不調に陥ってもそれを助けてくれるチームメイトがいる。一人じゃなくて、みんなで戦ってるんだ。柳田さんはそう実感したのだろうか、決勝の鎮西戦の時を振り返って柳田さんは後々こう言ってるのだ。

「一人で戦うのではなく、仲間がいる。止められても、次決めればいいんだと思って、仲間を信じて強気に攻め続けることが出来ました」

優勝後のインタビューではこうも言っている。

「昨日仲間に借りが出来ちゃったんで。昨日の分まで自分の仕事をしようと今日は頑張りました」

だから。
だから、決勝戦の柳田さんは強かったんだと思ってる。

昨日の雄物川戦、確かに出来た仲間への借り。昨日は仲間に助けてもらって勝たせてもらった。このままではエースとしては面目立たない。だからこそ、今日の決勝は、チームのエースとして、そして主将として、自分がチームを優勝へと導きたい。

そんな強い仲間への思いが彼の中であったからこそ、決勝で彼は一人爆発的な力を発揮出来たのだと、そう思う。

たらればの話はすべきじゃないけど、もし準決勝の不調がなかったら決勝で柳田さんはあそこまで力を出せてなかったのかもしれない。もしかしたら、準決勝ではなく決勝で不調が出てしまいそのまま負けてしまってたのかもしれない。

だから彼が決勝で爆発的な力を見せチームを優勝に導いたのは全て運命だったような気がしてならないのだ。

一戦一戦必死に歯を食いしばって勝ち進んできた彼に、神様が準決勝で試練を与えた。
しかし、それを乗り越えれば、チームみんなで乗り越えれば、もっと彼はチームを信じることができるようになって、もっとチームは前以上に強くなる。そしてそれを乗り越えたことで、彼は決勝の舞台で今までの中で一番凄い力を魅せ、チームを優勝へと導くのだと。そんな彼への試練。

そして彼は、彼らは、見事試練を乗り越え、彼は自分の力でチームを優勝へと導いた。運命だったのか必然だったのか、そんなことわからないけど彼らが周りの期待に答えたのは確かだった。自分たちの自分達の力で夢を叶えたことは、確かだった。

勝ちが決まった時、春高制覇を成し遂げた時、思わず彼が流した大量の涙は、どういった意味の涙だったんだろう。

周りからの無数の期待や羨望の眼差し、そして一人だけ注目され続けるプレッシャー、そんな中はひたすら表情を変えず気を引き締めてチームを引っ張り戦ってきた彼が、その全てのことから解き放された安堵の涙だったのだろうか。

それとも、この最高の仲間たちと春高初制覇を成し遂げられたことに対しての嬉し涙だったのだろうか。

それとも、自分がここまで出来たことへの感動の涙だったのだろうか。



きっと。その全てが当てはまった涙で。

それはいつも表情をほぼ変えない無性に大人びた彼の見せた涙ではなく、たった一人の高校生の男の子の、涙だった。

涙を拭っても拭っても溢れてくる大粒の涙。東洋の選手たちはみんな喜びを爆発させてるのにそんな中で一人だけ泣いている姿は、なんだか異質で。でもそんな泣いてる彼に「なんで泣いてるんだよ〜」とバカには絶対しない東洋の他の選手達を見て。だから彼らが同じコートで一緒に戦ってる姿は毎回あんなに心が躍ったんだと気付きました。


鎮西のエースの池田くん。柳田さんのライバルであり大親友の彼が、悔しいだろうに、こてんぱんに負けて悔しいだろうに、「優勝おめでとう」と柳田さんに声をかけた姿見て、それに対して思わず泣いてしまう柳田さんの姿を見て。だから彼らの戦いはこんなにキラキラと美しいものに見えたんだと気付きました。



まず監督やコーチ達を胴上げした東洋のチームメイト達。そこには参加せず、少し離れたところでまだ泣いてる柳田さん。そんな柳田さんに対して「マサ!マサ!」とみんなで呼び、誰よりも先にまず柳田さんを胴上げしたチームメイト。

柳田さんは東洋の絶対的エースではあったけど、孤高のエースなんかではなかった。

一人残らずみんなで、東洋全員で掴んだ勝利。だから嬉しいんだよね。

泣いた後の赤い目で、チームメイトと心からの笑顔で喜び合う彼が、みんなで喜びを爆発させちゃってる彼らが、とっても眩しくて。目を瞑りたくなるぐらい眩しかったけど、そんな彼達の”青春”を絶対に忘れないようにその当時の私は必死に目に焼き付けた。











春高に出場した学校、そして出場した一人一人に物語があって。もっと言えば春高を目指していた高校生一人一人に物語がある。

全国の高校生たちがそれぞれの物語を抱えながら、そしてそれぞれの思いをかけながらも、たった一つ優勝という同じ夢に向かって、春高という舞台で自分たちの力を全て出せるように本気で努力して、そしてコートの中でみんな全力で戦ってる。

だから面白い。だから熱い。だからみんながキラキラ輝いて見える。だから、毎年ドラマがある。

私は春高は東洋の柳田さんの頃を一番見てたし、一番詳しいので、その頃の東洋だけをピックアップしましたが、春高はほんと毎年熱いし泣けるし最高におもしろい戦いなので、バレーの中では春高が一番大好き。

そして2016年、1月。
また。新たな物語が始まるのだ。